西宮市｜さきたクリニック-院長のひとりごとコラム-くもをさがす

“くもをさがす”は直木賞作家である西加奈子さんがカナダに移住中、乳がんにり患し治療をした経過を綴ったノンフィクションです。折々の大事なところで“くも”が出てくるので、これは亡くなった大好きなお祖母さんが“くも”の姿で見守ってくれていると信じて“さがす”ようになったのが本の題名の由来です。

 

加奈子さんはまだ小さいお子さんを抱えながらの外国生活中に、トリプルネガティブ乳がんにり患します。術前化学療法中に新型コロナに感染し、BRCA陽性のため、両側乳房全摘の術式を選びます。
言葉がままならず、日本とカナダの医療制度の違いに翻弄されながらも家族や友人、知人の協力を得ながら治療に臨みます。

 

術後の病理検査の結果キャンサーフリーを勝ち取りハッピーエンドかと思いきや、治療中は心身ともに大変だったものの明らかな目標があり迷いがなかったといいます。
キャンサーフリーになった後、これから自分はどう生きればいいのかわからなくなったそうです。

 

がんを患った人ならではの視点で治療の経過が生々しく語られます。
作者が語る日本とカナダの医療制度や医療者の態度の違いには驚かされることが多々あります。
乳がんに対する標準治療はおそらく世界中どこも同じと考えられますが、実際の施行の仕方はずいぶん違うものだと感心させられました。日本とカナダそして文中にアメリカの例も引き合いに出されますが、医療者目線から見てそれぞれ一長一短があり考えさせられました。

 

もちろん乳がんを患った人やその周りの人にとっても参考になる内容が多く含まれています。
作者はそんな人にこれを読んでほしいと思ったと書いています。
興味のある方は是非一読をお勧めします。

 

著者　院長・医学博士　先田功