この本は人前で読んではいけません。必ず泣いてしまいますから。
読売テレビのキャスターであるシミケンこと清水健さんが明かす家族3人の闘い。シミケンさんは奈緒さんと結婚し、妊娠を知らされます。まさに幸せの絶頂です。ところがその後、奈緒さんの乳がんが発覚します。ここで妊娠を継続するか、がん治療に専念するかの選択に迫られます。この点において夫婦は全く迷いなく妊娠続行を選びます。受け入れの病院を探して妊娠中に乳がん手術を受け、抗がん剤治療を施行されます。そして無事待望の男の子を授かります。その喜びもつかの間、奈緒さんの乳がん転移が明らかとなります。懸命の治療の甲斐なく、産後112日目に奈緒さんは帰らぬ人となりました。享年29歳。
若い女性がかかるがんとして最も多いものが乳がんです。乳がんと結婚、妊娠、出産と言えば”余命1か月の花嫁“や”はなちゃんのみそ汁“も有名です。いずれの話も実話で、結果が悪いため若い女性の乳がんは成績が悪いとの誤解を生むかもしれませんが、若い女性がかかる乳がんの成績は必ずしも悪いものばかりではありません。乳がんを抱えながら結婚、妊娠、出産をして元気な患者さんもたくさんおられます。しかし結果が悪かった場合に残された人たちの喪失感は想像を絶するものがあります。特に小さな子供さんが大事な母親を亡くすことはとても悲劇的です。
こういう本を読んでいると患者さん目線で医療者の対応が書かれています。患者さんやそのご家族はこんな風に感じているのだと改めて知らされることもありました。医療者の一挙手一投足、一言一言が患者さんおよびご家族に大いに影響を及ぼしていることを改めて肝に銘じなければと思いました。それにしてもこれらのように結果が悪い場合の医療者の無力感はいかんともしがたいものがあります。日々乳がん死亡を減らそうと努力をしていてもまだまだ相手は強大です。さまざまな角度から闘いを挑み、目に見える成果も続々と出ているにもかかわらず、このような一つの悲劇の前にはどうしようにもなくなってしまいます。それでもあきらめることなく今後も努力していきたいと強く感じました。
“112日間のママ”は当院スタッフで回し読みをして、クリニックにも置いておきます。機会があれば買ってでも、借りてでもいいですからぜひご一読をお勧めします。決して読んで損のない一冊だと思います。
著者 院長・医学博士 先田功
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