遺伝性乳がんに対する新薬オラパリブ(リムパーザ)が承認されました。
全乳がんの5-10%はBRCA1あるいはBRCA2という遺伝子が生まれつき変異をきたしている遺伝性乳がんと言われています。この遺伝子に異常があると遺伝子損傷に対する修復がうまくできません。その結果高い確率で乳がんや卵巣がんが発症します。
今年の乳癌学会診療ガイドラインの改訂により、遺伝性乳がん患者に対する予防的乳房切除や卵巣摘出が強く推奨されるようになりました。
今回のオラパリブの承認により遺伝性乳がん患者に対する新たな薬物療法の門が開かれたことになります。
PARPとは損傷したDNAを修復する酵素の一つです。オラパリブはこの酵素の働きを阻害する薬です。ヒトの体の中では日々遺伝子が損傷を受けています。
遺伝子は2本鎖のDNAからなります。そのうちの1本に損傷を受けた時に修復するのがPARPです。
2本のDNAが損傷を受けた時に働く遺伝子はBRCA1あるいはBRCA2です。遺伝性乳がん患者ではこの遺伝子が変異しています。BRCA遺伝子が正常ならば1本鎖DNAが損傷を受けPARPが働かなくても、細胞はもう1本のDNAを切断してBRCA遺伝子を使って修復します。
ところが再発あるいは進行性遺伝性乳がん患者にPARP阻害剤を投与すると1本鎖DNAが損傷を受けても修復ができずBRCA遺伝子も働かないためがん細胞が死んでしまいます。
つまりこの薬は遺伝性乳がん患者に特異的に効くということになります。
このように特定の遺伝子異常によるがんを狙い撃ちする治療がプレシジョンメディシン(個別化がん治療)です。
臨床試験では通常の抗がん剤より効果が高いことが証明されています。また一歩人類が乳がんを追い詰めたものと言えます。
このようにがん発症のおおもとである遺伝子の異常に基づいた治療を開発することにより乳がんをはじめがんを撲滅していきたいものです。
著者 院長・医学博士 先田功
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