厚生労働省のがん検診部会は乳がん検診における視触診を推奨しないという判断を下しました。
その根拠は一つには視触診検診が乳がん死亡を減らすというエビデンスがないこと、および視触診に医師を手当てすることの困難さがあると思われます。この方針に則り多くの自治体で乳がん検診から視触診を省略する方向となってきています。
利点としては検診に直接医師を派遣しなくてもよい分、今よりも検診を広く推し進めることができるようになるでしょう。
欠点としてはマンモグラフィでは見つからず視触診でのみ見つかる乳がんをどうするかという問題があります。視触診でのみ見つかる乳がんには非常に大きくてマンモグラフィではかえってわからない場合があります。
また異常乳頭分泌や、受診者が気づいている小さなしこりからわかる場合も、マンモグラフィだけではわからない場合があります。
こうした特殊な例では入念な問診からの拾い上げや、直接受診者と触れる保健師や放射線技師がより注意を傾けることにより見落としを防げる可能性があります。さらに昨年発表があったJ-STARTの結果によると、マンモグラフィに超音波検査を併用すると視触診のみで発見される乳がんがないことが明らかとなっています。
つまり超音波併用検診なら視触診は必要ないという結論になります。
いずれにせよ今後は乳がん検診から視触診が省略されることが主流となるでしょう。
これにより様々な方法でもなかなか上昇しなかった受診率の向上を促したいものです。そして医療サイドは視触診省略による見逃しを最小限に抑える努力をすることが大事です。
また受診者側も症状のある人は検診の対象でないことをよく認識していただき、少しでも変だと思うことがあれば検診ではなく乳腺外来を受診していただきたいと思います。
乳がん死亡を減らしたいというのが乳腺専門医の最大の願いです。
そのために我々は努力を惜しみません。そして皆さんも同じ願いのもと、自分の乳房に関心を持ち症状があれば専門医を受診し、症状がない人は検診を受けていただくという努力を怠らないようにお願いします。
両者のたゆまぬ努力があってはじめて乳がん死亡が減らせると信じています。
なにとぞご協力のほどお願いしたいと思います。
著者 院長・医学博士 先田功
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