抗HER2薬-院長のひとりごと

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抗HER2薬

 最近乳がんに対する新薬が日本で続々承認されています。今回はそのうちの抗HER2薬について説明します。細胞の表面にHER2タンパクを持つ乳がん(HER2陽性乳がん)があります。以前はこのタイプの乳がんは悪性度が高く治療成績もよくありませんでした。ところが最近、このタンパクを標的にした薬(抗HER2薬)が次々に開発され、HER2陽性乳がんの治療成績は向上しています。

 

 最初に開発された抗HER2薬はハーセプチンです。この薬が実用化されるまでには様々なドラマがあり「希望の力」という映画にもなったほどです。この薬が使えるようになりHER2陽性乳がんの治療成績は画期的によくなりました。ところがハーセプチンを使っても効かない、あるいは効かなくなるHER2陽性乳がんが出てきます。そこでさらに新しい抗HER2薬が開発されました。それがタイケルブです。これはハーセプチンとは働く場所が違うのでハーセプチンが無効なHER2陽性乳がんにも効果を発揮しました。ところがハーセプチンもタイケルブもすり抜けるHER2陽性乳がんが表れてきます。そこでさらにさらに新しい抗HER2薬であるパージェタが開発されました。もちろんハーセプチンともタイケルブともその働き方が違います。いまやこの3つの抗HER2薬を駆使してHER2陽性乳がんに立ち向かうことができるようになったのです。院長のひとりごと 2014年4月号 抗HER2薬

 

 そして今年さらに新しい抗HER2薬が承認されました。カドサイラという薬です。これは従来の抗HER2薬とはコンセプトの違った薬です。従来の抗HER2薬はHER2タンパクを介して乳がん細胞が分裂するのを抑える働きを持っていました。それに対してカドサイラはHER2タンパクを目印にして、その場所に強力な抗がん剤を運んでHER2陽性乳がんをやっつけてしまうというものです。このように多彩な抗HER2薬を使えるようになり、HER2陽性乳がんの治療成績はさらに向上するものと期待できます。

 

 従来ホルモン受容体陽性乳がんに対して多彩なホルモン剤を使って治療成績を上げてきました。HER2陽性乳がんも抗HER2薬によって治療成績が上げられました。今問題となっているのはホルモン受容体もHER2タンパクも持たないトリプルネガティブ乳がんです。要するにどういう仕組みでがん細胞が増殖しているのかよくわからないために適確な治療戦略が選べないのが現状です。今後トリプルネガティブ乳がんの増殖の仕組みが解明されれば、そこを責める手立てが開発されます。そうして一日も早い乳がんの撲滅を目指したいものです。

著者 院長・医学博士 先田功

乳がん検診・乳腺外科
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