身内の死2(父の手術)-院長のひとりごと

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身内の死2(父の手術)

 父が肝硬変の診断を受けて、数年後。肝硬変は食道静脈瘤を併発するため、定期的に胃カメラを受けます。そのときに偶然早期胃癌が見つかりました。もちろん手術が必要です。早期胃癌の手術はそれほど危険なものではありませんが、肝硬変を持っている父にとってはリスクが大きいといえます。胃と食道が専門である母校の助教授に執刀をお願いしました。私は手術に立ち会う予定で、参加するつもりはありませんでした。しかし助教授に入らなければならないといわれ、急遽助手を務めることになりました。正直父の手術に平常心で対処できるのかどうか自信はありませんでした。実際手術前に入れ歯をとって、急に老けた父の顔を見たときにはショックを受けました。それでも麻酔がかかり、体に布がかけられると外科医からは手術をする腹部しか見えません。手洗いを済ませて、定位置についたとき普段と変わらず冷静な自分にむしろ驚きました。

 

 手術は淡々と進み、予定の胃部分切除が完了しました。切り取られた胃袋を係りの外科医が切り開き病変部分が完全に取れているかどうか確かめます。切れ端を病理部に届け、顕微鏡でがんの取り残しがないか調べます。10分もしないうちに病理部から連絡が入りました。断端が少し怪しいとの結果でした。そのままでもいけないことはないが、完全を期するためにはさらに胃を切る必要があります。それは胃の全摘を意味します。通常、患者さん自身は麻酔で意識がありませんから、手術室に家族を呼んでどうするか決めていただきます。そのときの状況は、その家族が手術に参加しているというものでした。 “先田よー。どうする?”と助教授に問われた私は、躊躇することなく“全摘でお願いします。”と即答しました。このときの判断に間違いはなかったと今でも確信していますが、全くためらうことなく答えた自分が今でも不思議な気がします。身内の死2(父の手術)

 

 手術は無事終了し、術後の経過も思いのほか順調で心からほっとしました。胃が全くなくなったことで、父の食はほんとうに細くなりました。ただ胃全摘のときは、必ず脾臓を切除します。肝硬変の患者は脾臓が肥大して、血を止める働きの血小板が減少します。脾臓を取ると、その血小板が正常になります。また胃と食道を切り離すことによって、食道静脈瘤が治ります。結果的に父の場合は胃がんと、血小板減少、食道静脈瘤治療の一石三鳥の手術となりました。おかげで胃がんは完治し、肝硬変の寿命も大いに永らえることとなりました。

 

 人間何が幸いするか知れません。父の場合は胃がんが見つかったおかげで寿命が大いに延びたといえるでしょう。

著者 院長・医学博士 先田功

乳がん検診・乳腺外科
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