乳がん検診の利益と不利益-院長のひとりごと

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乳がん検診の利益と不利益

 乳がん検診の利益と不利益2012年に右肩上がりだった日本人乳がん死亡率が初めて低下しました!

これには様々な要因が考えられますが、一番大きいのは乳がん検診推進の結果だと思われます。欧米では1980年代から国を挙げて乳がん検診に取り組み、1990年代から死亡率が低下しています。日本では2007年にがん対策基本法が施行され、がん検診受診率向上が目指されました。乳がん検診では2009年より無料クーポン券が配布され、受診率が大幅に上昇しました。その効果がやっと出てきたのでしょう。

 

 乳がん検診には利益と不利益があることが以前から指摘されています。利益は唯一、乳がん死亡の減少です。これが達成された意義は大きいものがあります。不利益は様々言われています。まず検診を受ける事そのものの時間的、経済的負担があげられます。マンモグラフィによる被曝や撮影時の痛みや恥ずかしさも伴います。さらには要精密検査を判定されたことで引き起こされる精神的、肉体的、経済的、社会的負担があります。検診受診者1000人に対して、要精密検査の判定は約50人に下されます。そのうち乳がんが見つかるのは2~3人です。つまり結果的に50人中47~48人は無駄な負担を強いられたことになります。アメリカでは特にこの点が重視され、乳がん発見率の低い40代検診が強く推奨されなくなりました。翻って日本では40代後半から50代前半に乳がん発生のピークがあります。したがってこの年代の検診を軽視することができません。わが国では精密検査の負担を最小限にとどめる努力がなされています。国立がん研究センターの報告では日米の40代の比較において、日本の方が不必要な精密検査が少なく不利益より利益の方が上回ると報告し、今後も従来通り40代の乳がん検診が推奨されると結論付けられました。乳がん検診の利益と不利益

 

 最近、新たに出てきた不利益の概念に過剰診断というものがあります。欧米において乳がん検診が広まると早期乳がん発見率が上昇し死亡率は低下するものの、進行乳がん発生率はそれほど下がっていないという事実が示されました。つまり放っておいても害のない乳がんまで見つけているのではないかということです。確かにある種の乳がんでは発育が遅く命を脅かさないものもあるようです。ただ、今の医学ではそれを区別することができません。今後の診断技術の進歩が待たれるところです。

 

以上のように乳がん検診には様々な不利益があることは事実です。それもすべて乳がん死亡を減らすという利益を目指しての結果です。この点を十分理解していただいたうえで、やはりわれわれ乳腺専門医は乳がん検診の受診を強くお勧めします。

著者 院長・医学博士 先田功

乳がん検診・乳腺外科
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