先日、兵庫県立西宮病院虹の会で乳がんの補完代替医療について講演しました。
今回のひとり言はそのまとめを記したいと思います。
講演では今年(2009年)日本乳癌学会が発刊した患者さんのための乳がん診療ガイドラインと厚生労働省の助成金で編まれた、がんの補完代替医療ガイドブック(これは非売品ですが、インターネットから無料で簡単にダウンロードできます。)の内容を中心にお話しました。
まず患者さんのための乳がん診療ガイドラインですが、これはQ&A方式になっていて乳がん診療の様々な疑問に答えるという内容になっています。
その最後の項目が
“アガリクスやメシマコブなどの補完代替医療(民間療法など)は乳がんに対して効果が期待できるのでしょうか、乳がんの治療中にこれらを併用してもよいでしょうか”
というものです。
その答えは
“乳がんの進行を抑えたり再発を予防したりする効果が明らかとなっている補完代替医療(民間療法など)はありません。
そのため、乳がんに対する治療としてはお勧めできません。
ただし、がん治療に伴う副作用やがんによる痛みなどの症状を緩和する目的、あるいは不安などの心理的なストレスの軽減を目的とした補完代替医療の中には有用性が明らかになっているものもあります。
補完代替医療を受けたい場合には、担当医に率直に相談しましょう。”
これが現時点での模範解答ということになります。
以前は手術や放射線、薬物療法といった標準治療と補完代替医療はあたかも敵対しているかのような関係にありました。
しかし最近は補完代替医療が標準治療を正に補完する形で存在し、両者を統合する形で統合腫瘍学ということが唱えられています。
実際アメリカには国立補完代替医療センターというものがあり、巨額の予算の元に補完代替医療の研究が行われています。
その結果がんの痛みや治療に伴う副作用に対する鍼灸治療や不安、情緒的な動揺に対する心身療法、健康を維持、増進するための日常の食事に関する栄養士などからの栄養指導、不安や痛みに対するマッサージ療法などに科学的根拠があり患者さんに推奨されるとしました。
さらにある種の漢方薬にはがん治療に伴う副作用に対して効果的であることが証明されています。
また食事や運動などの生活習慣ががんを予防することも明らかとなっています。
わが国でがんの補完代替医療というと、アガリクスやメシマコブなどの健康食品やサプリメントが中心です。
残念ながら、これらががんに効くという科学的根拠はありません。
アンケートでは多くのがん患者さんが知人や家族からこれらの健康食品を勧められ、効果をあまり実感することなく使用しているというのが現状のようです。
問題なのは患者さんがこれらの健康食品に対する正しい情報を吟味することなく、多くは主治医に相談することなく使用していることです。
またそれほど頻度は高くありませんが副作用もあり、中には非常に重大な副作用も報告されています。
さらにこれらの健康食品は高額で、人によっては月に50万円以上もかけていることがあることが明らかとなっています。
乳がんの治療においては、手術、放射線、薬物療法がメインで補完代替療法はあくまでもそれを補完するものであるという再認識が大事です。
またそれらを利用する際には、よく情報を吟味し必ず主治医と相談して行うことが必要ではないでしょうか。
著者 院長・医学博士 先田功
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